小規模な発電設備を集約し、大きな発電所のように管理・制御できるようになる仮想発電所(VPP)。さまざまなエネルギー問題を抱えている日本において、注目を集めているテクノロジーの一つです。このページでは、仮想発電所の仕組みや動作原理、利用するメリットなどを詳しく解説します。
目次
仮想発電所は、各地に分散している太陽光・風力などの発電設備や蓄電池をまとめ、IoT技術で一括制御するテクノロジーのことです。バーチャルパワープラント(VPP)とも呼ばれています。日本はもちろん海外でも注目を集めている技術であり、さまざまな国が実証実験や導入に向けた取り組みを実施しています。
仮想発電所が注目されている背景は、災害時のエネルギー安定供給を可能にすることが求められているためです。日本は地震や集中豪雨などの災害が多い国で、災害が発生する度に広域で停電が起こるなどエネルギーの安定供給に課題を抱えています。仮想発電所は、各地に散らばる発電設備を利用するため、エネルギー供給元が分散されます。その結果、災害時の大規模停電リスクが低減される可能性があります。
また、再生可能エネルギーの利用拡大も影響しています。日本は一般家庭レベルで太陽光発電が普及していますが、再生可能エネルギーは気象条件によって発電量が変動します。仮想発電所は、複数の発電設備をまとめることでエネルギー供給の安定性を高められます。もし特定の設備で発電量が大きく低下した場合でも、他の設備でカバーできるようになります。
これまでの発電所と仮想発電所の違いは、発電施設の規模にあります。従来の発電所は、火力発電所や原子力発電所など大規模な施設から電力消費者(需要家)に供給しています。発電施設は主に電力会社が所有しており、1つの施設で多くの電力を生み出すことが可能です。
一方の仮想発電所は、小さな発電・蓄電設備をいくつもまとめて制御する技術をいいます。それぞれの設備は個人や企業などが所有しており、一つひとつの発電量は決して多くありません。また、従来の発電所は主に電力会社が出力を制御しますが、仮想発電所ではアグリゲーションコーディネーターなどの事業者が制御を担っています。
以下では仮想発電所の構成要素やエネルギー供給について解説します。
仮想発電所は、各地にある分散型エネルギーリソース(DER)を管理・制御することで発電所のように振る舞っています。DERは太陽光発電や小型風力発電、蓄電池などの設備(リソース)を指す言葉です。仮想発電所を構成する要素の一つで、発電・蓄電量に大きな影響を与えます。
仮想発電所はあくまでも技術であり、発電施設・設備を持たないため、みずから電力を生み出すことはできません。そのため、仮想発電所を構築するためにはDERが必要不可欠なのです。反対にDERは単体でも運用できますが、仮想発電所と組み合わせることで運用効率が高まります。
また、仮想発電所とDERはアグリゲーションコーディネーターが介在することで連携を可能にします。アグリゲーションコーディネーターが各地にある設備(DER)の所有者と契約を結び、仮想発電所の技術を用いて管理・運用する構図です。そして仮想発電所とDERが連携することで、エネルギー供給の安定化や効率化を実現できます。
仮想発電所は、リアルタイムに発電量などのデータを監視し、電力の需要予測を立てています。このような仕組みにより、効率的なエネルギー供給を可能にしているのです。
一方、刻々と変化する需給バランスをコントロールするために、アグリゲーションコーディネーターはデマンドレスポンス(DR)も実施します。例えば電力の需要を増やすために蓄電池への充電を要請したり、不足分を補うために蓄電池を稼働させたりなどです。こうした細かい制御を行うことで、電力需要の増減に合わせた電力の供給を実現しています。
仮想発電所は、エネルギーにおける各種課題を解決する可能性を秘めており、さまざまなメリットをもたらすと期待されています。
まず上げられるメリットは、エネルギー利用の効率化とコストの削減です。従来の大規模な発電施設は郊外に建てられるケースが多く、電力の需要地まで距離が離れています。しかし、距離が離れると送電ロスが起きるため、エネルギーに無駄が生じてしまうのです。その分発電にかかるコストも増加する可能性があります。
一方、仮想発電所は各地域にある小規模な設備を利用するため、発電場所と需要地の短くして送電ロスを抑えられます。また需要に合わせて出力を細かく制御できるので、発電コストも削減可能です。
仮想発電所はエネルギー供給の安定化にも寄与します。従来の発電システムは、1つの大きな発電所で大量の電力を生み出し、送配電網を通して広域に供給しています。しかし、発電所でトラブルが起きたり被災したりすると、広域で停電が起きるリスクがあります。
一方の仮想発電所は、発電設備が各地に散らばっています。そのため、特定の設備でトラブル・災害が起きたとしても、受ける影響は限定されるのです。発電設備などが分散されるため、エネルギー供給の安定性が高まります。また、電力の需要状況に応じて設備を制御できるため、エネルギー供給の柔軟性も向上するでしょう。
ここからは、仮想発電所の実証実験や事例についてご紹介します。
つくば市にあるリコージャパンの事業所での実証実験例です。AIによる制御のもと、事業所内に設置されている蓄電池を仮想発電所のリソースとして活用。電力の需給バランスや市場価格など考慮し、蓄電池システムに充放電の指示を遠隔から送る制御を実行しました。
実証実験の結果、制御に関しては適切に機能することや、チューニングしていない時点での経済性メリットが確認されました。一方、制御に用いたデータの粒度や制御時の反応スピードなど、一定の課題も見つかったようです。
沖縄県宮古島での仮想発電所の事例です。海外EVメーカーのテスラが提供する家庭用蓄電池を利用した、商業用の仮想発電所事業が開始されました。同事業は2021年に始まり、2023年度末までに島内へ600台の蓄電池の設置を目標にしています。仮想発電所のアグリゲーションはテスラが開発したソフトを使用し、蓄電池を一括で充放電できる仕組みを整えているようです。
仮想発電所を導入することにより、島内での電力の供給安定化や、再生可能エネルギーの利用拡大が期待されています。
仮想発電所は世界各地で活用が模索されており、日本でも実証実験・事業が行われています。まだ効果を検証している段階といえますが、今後技術が確立されれば普及が進む可能性があります。また、再生可能エネルギーの利用がさらに進むことも考えられるでしょう。
従来の集中型エネルギーシステムとは違い、仮想発電所を利用すればエネルギー供給元を分散できます。その結果、エネルギー供給の安定性が高まるほか、効率化や発電コストの削減にもつながる可能性を秘めています。
エネルギーの安定供給やコストなど、日本が抱えるさまざまなエネルギー問題の解決に寄与する仮想発電所。エネルギー管理の手法でお悩みなら、仮想発電所という次世代のテクノロジーの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
下記のページで、仮想発電(VPP)について、さらにわかりやすく図解をしていますので、気になる人は是非チェックしてみてください。
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